✦身体心理学から見たフォーカシング

(あべ)

私は、心理臨床家を生業としているため、人が変容するプロセスに興味がある。フォーカサーとリスナー間で起きているプロセスは、身体心理学的側面から見ると、どう説明できるのか?フォーカシングにおける変容、シフトを論じてみたい。

ここで、少々自律神経について整理を・・・。

昨今、テレビ番組でも、書籍売り場でも、自律神経が注目されている。自律神経とは、簡単に言えば、自分の意思でコントロールできない、身体の機能をつかさどっている神経。
私たちの生命維持に不可欠な血圧や消化、血流や呼吸は、自律神経がつかさどっている。

自律神経は、アクセルの役割をする交感神経、ブレーキの役割をする副交感神経と説明されることが多い。近年、身体心理学をけん引するポリベーガル理論では、副交感神経のブレーキを「腹側迷走神経」と「背側迷走神経」の二種類にわけている。ここでは簡便に、アクセルのように身体を活性化する「交換神経」、二種類の副交感神経のうち「腹側迷走神経」を「みんなとゆったり神経」、「背側迷走神経」を「ひとりでゆったり神経」と表現しよう。

「みんなとゆったり神経」は、文字通り他者とつながる神経。自分以外の人や動物と一緒にいて心地いい、リラックスするときに活性化する神経。家族や仲良しの友達と一緒にいたり、飼い犬や飼い猫を抱っこしたときの、ほっこり落ち着いた穏やかな感じ。
一方「ひとりでゆったり神経」の役目は、ひとりで行う消化や休息。食べ物を消化したり、身体を整えたり、一人でぼーっとしたり、瞑想時も「ひとりでゆったり神経」が活躍する。

ポリベーガル理論の祖、ポージェス博士は、個人が安心安全な環境の中で、サポートする人がそばにいるということを前提条件とし、「みんなでゆったり神経」「ひとりでゆったり神経」の両方の活性化によって、精神性の向上をサポートするような経験を得ることが出来るとしている。

これは、これは、まさしくフォーカサーとリスナーガイドの関係性、フォーカシングそのものではないだろうか?

フォーカシングセッションのためには、「安全安心」な場が必要なのは自明の理。当然だが、アクセルと称される「交換神経」活性化モードでは、自分の内側を感じることは出来ない。私たちの脳には、危険を察知して警報機を鳴らす扁桃体がある。「安心安全」と私たちの脳そして身体が感じるためには、「交感神経」優位な状態ではなく、ゆっくりゆったりモードの副交感神経、「ひとりでゆったり神経」と「みんなとゆったり神経」が優位である必要がある。

フォーカシングセッションにおいて、フォーカサーは、「ひとりでゆったり神経」を作動して内側の探索をしながら、「みんなとゆったり神経」でリスナーガイドのホールド、安心感とつながっている。そして、セッションを支えるリスナーガイドもまた「ひとりでゆったり神経」を作動し自分の感じに気づいている同時に、「みんなとゆったり神経」を作動して、フォーカサーとおだやかにつながりホールドしている。

つまり、フォーカシングは、身体では、フォーカサーもリスナーガイドも「ひとりでゆったり神経」と「みんなとゆったり神経」を作動し、神経レベルで相互作用、相互交流している状態である。故に、ホールドや、スペースをとるといった、フォーカシングの基礎基本に基づいてフォーカサーにシフトが起きる時、私たちは、身体に変化が起きる。リスナーガイドとしてフォーカサーとご一緒していれば、シフトの際、顔が紅潮(血流が変化)したり、身体のこわばりが取れたり(筋骨格が変化したり)、ため息をついたり(呼吸の変化)、声のトーンや速さが変化したりと、自律神経系の変化が起きているのが見て聞いて取れるだろう。とするならば、とかくリスナーガイドは、目の前のフォーカサーを意識しがちだが、実はわが身の神経を調えることが最優先事項で、それがフォーカサーのプロセスを促進することを忘れてはならない。

なにより素晴らしいことに、神経は可塑性があり、どこまでも性能をよくすることが出来る。私たちは、この効率優先成果主義の社会で、時間に追われ、交感神経優位モードな現実に生きながら、フォーカシングセッションをすることにより、「ひとりでゆったり神経」「みんなとゆったり神経」を活性化させ、グラウンディングし、プレゼンスを深めることが可能なのである。

長々と論じてはきたが、一臨床家としては、フォーカシングは語るものではなく、実践するものである。なぜなら、そこにこそ、変容があるから。

注)ポリベーガル理論については、かなり簡便な説明となっているため、詳しくお知りになりたい方は、専門の書籍等をご参照お願いします。

(この文章は、日本フォーカシング協会のニュースレターのリレー連載 「研究者の数珠つなぎ」に阿部トレーナーが寄せた原稿:The Focuser’s Focus 第22巻第4号(2020年2月20日発行), pp.14-16. をウェブサイト掲載用に改訂したものです)

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