✦フォーカシングのきょうだいThinking At the Edge(TAE)

トレーナーの堀尾です。
第4回TAE質的研究シンポジウムのお知らせを掲載したので、TAEについて書いてみます。

TAEとは

Thinking At the Edge(TAE)は、まだ言葉にはなっていないけれど確かに分かっていることを言葉にしていく方法で、フェルトセンスからの理論構築法でもあります。
最終段階のステップ14まで行うと理論構築まで、途中までならフェルトセンスにもとづく文章作成法として使えます。
(参考:ユージン T. ジェンドリン「TAE(辺縁で考える)」への序文

日本語では「辺縁で考える」と訳されています。
ただ私は、辺縁だとある程度幅ありそうなイメージなので、際が好みです。
ドイツ語だと’Wo noch Worte fehlen’未だ言葉の欠けるところ。こちらの方が英語名より好きです。

自分では分かっていることなのだけれど、言葉にならない。。。
これを伝えたいというのがあるのだけれど、うまく言えない。。。
“じぶんのことば”で書きたいけれど、なんだか借り物みたい。。。
という経験は、ありませんか?

うまく言葉にできないのは、ほんとうには分かっていないからだと思ったり、
“正しい言葉”の呪縛に囚われたりしていませんか?

分かっていること、伝えたいこと、言いたいことには、独特の感じ(フェルトセンス)があります。
言葉にしたい”なにか”は、その人だけが知っている、たったひとつのユニークなものです。
TAEは、その言いたい「何か」から感じられるフェルトセンス(からだの感じ)に触れながら言葉にしていく、必要なら理論にまでしていくことのできる、独特の方法です。

TAE(Thinking At the Edge)を学ぶことで、その人しか知らないこの独特の感じを、
他の人に伝わるような言葉に(必要なら理論にまで)していくことができます。
TAEは、フォーカシングとならんで、
暗黙のもの(フェルトセンス)に関するジェンドリンの哲学から生じた、
私たちを元気にしてくれる方法です。

なぜTAEが私たちを元気にしてくれるか

TAEを使うと、自分がふだん取り組んでいることで(仕事でも趣味でも家事でもなんでもOK)、まだ言葉にならないけれど言いたいことを、はっきりさせることができます。

自分では感覚的に分かっているけれど言葉にはできないことをはっきり言葉にすることができると、自分がしっかりする感じがします。自信が持てます。元気が出ます。

これはきっと「人格変化の一理論」でジェンドリンが書いている度合いが増すからでしょう。

自己は、人が自分に感じられた過程を自ら象徴、行動、あるいは注意によって推進させうる度合いに応じて存在する。

——ユージン・ジェンドリン著、村瀬孝雄/池見陽訳「人格変化の一理論」
ユージン・ジェンドリン/池見陽著、池見陽/村瀬孝雄訳
『セラピープロセスの小さな一歩—フォーカシングからの人間理解』1999、金剛出版
p.222, 下から15行目

言葉になると、誰かに伝えることができ、人と分かち合うことができるようになります。他者とも深くてしっかりしたコミュニケーションが可能になります。

言葉になった「それ」は、自分以外の誰かにとってもとても役に立つかもしれません。

役に立つなら、嬉しいことですよね。自分が持つ力を感じることができるでしょう。

自分の芯をしっかりとさせてくれるTAEが、我々がこの状況を生きていく助けになることを夢みています。

TAEのステップの紹介

こちらにあります:
辺縁で考える (TAE)のステップ|国際フォーカシング研究所日本語ページ

TAEのステップ9までの簡単な説明

こちらをご参照ください:

✦しっくりくる言葉を見つける方法

TAEのやり方を詳しく知るには

TAEのやり方は、得丸さと子さんの著書『TAEによる文章表現ワークブック: エッセイ,自己PR,小論文,研究レポート…… 人に伝わる自分の言葉をつかむ25ステップ』(2008、図書文化社)で分かりやすく解説されています。書き込み式のワークシートも手に入ります。

上述のTAEを熱心に広めておられる得丸智子(さと子)さんは、TAE研究会を主宰なさっています。得丸さんのご著書ほかTAEに関する情報満載です。学びの機会の案内もあります。

国際フォーカシング研究所ウェブサイトには、TAEに関する情報や資料について案内が掲載されたページがあります。
https://focusing.org/felt-sense/thinking-edge-tae

国際フォーカシング研究所機関誌The FolioのTAE特集号は、

  • TAE(辺縁で考える)の紹介/ユージン・T・ジェンドリン博士
  • TAE(辺縁で考える)のステップ/ユージン・T・ジェンドリン博士とメアリー・ヘンドリクス博士

など、いくつかが日本語に訳されてます。
https://focusing.org/folio/japanese-folio

このTAE特集号の付録(p.147)日常使いのTAEの日本語訳は次のとおりです


付録:
日常使いのTAE

TAEは短くくだけた形でも使えます。

人が何か深い意味を持ったことを言ったとき、次のように問いかけます。

もしその____という語句が、自分の言いたい意味を本当に正確に言うためには、

(少し間をおいて、調子を変えて、とてもやさしく)

あなたが

その語句で

言いたいのは、

どういうことなんでしょう。

日常使いのTAE

前項に挙げた日常使いのTAEはほんとうに日常で使えます。
それを元にしてTAEのエッセンスをご紹介したいと思います。

ほんとうに言いたいことを言うために

ご自分でも他の誰かでも、ひとがある語句でなにか意味を込めて言った(あるいは、書いた)時、ご自分に、あるいは、その人に、次のように問いかけます。

(少し間をおいて、調子を変えてとてもやさしくゆっくりと)

私(あるいは、あなた)が
  その語句で
    言いたいのは、
      どういうことなのだろう…

この応答(問いかけ)で、私(あるいは、あなた)にしばしの沈黙が起こるでしょう

そして、その語句で言いたかった(書きたかった)よりほんとうだと感じられることが浮かんでくるでしょう

[これは、ペースを落とすこと(スローダウンすること)の効果です。そうすることで、感じられる意味感覚(述べたいことのフェルトセンス)に触れる余地ができます]

これを繰り返すことで、しっくりくる(ぴったりだと感じられる)語句を見つけることができる(語句が生じてくる)でしょう

TAEによる理論構築と質的研究

理論構築まで目指す方には、得丸さと子著『ステップ式 質的研究法: TAEの理論と応用』(2010、海鳴社)があります。

諸富祥彦・末武康弘・得丸智子(さと子)・村里忠之編著『「主観性を科学化する」質的研究法入門: TAEを中心に』(2016、金子書房)には、TAEの理論、具体的な手順、そして、研究の実践例が複数掲載されています。