フォーカシングから心理療法への示唆:論文2つのご紹介

今年、フォーカシング・ネットワークのトレーナー久羽康さんによる論文が2本、金剛出版発行の雑誌『臨床心理学』に掲載されました。

久羽さんは、昨年度第5回日本人間性心理学会奨励賞を受賞され、今年9月に行われた日本人間性心理学会第39回大会で「臨床と有機体、主体、応答性」と題した学会奨励賞受賞記念講演を行い、刺激的で興味深くとても好評でした。

金剛出版『臨床心理学』掲載久羽康論文2つ

心理療法における概念の用い方についての一考察―Gendlinの理論の観点から

1つ目は投稿論文で、2020年1月発行の金剛出版『臨床心理学』第20巻第1号pp.103-111に掲載されています。
論文タイトルは

「心理療法における概念の用い方についての一考察―Gendlinの理論の観点から」

で、理論・研究法論文の括りです。

キーワードとして挙げられてるのは概念、交差、共感的理解、フェルトセンスで、次の7つの項から成っています。

I 心理臨床における理論の問題
II 理論を中心とした理解
III 人を中心とする理解、問いとしての概念使用
IV 言葉の体験的な次元
V 理論と事象の交差
VI 本論文の主張の適用範囲と課題
VII まとめ

少しだけ抜粋します。

 初心のセラピストには学んだ概念を「使おう」とする傾向が強いことがあるが、すでに述べたように、クライアントを概念によってラベリングする、あるいはジャッジするという理論中心の姿勢でいると、理論や概念は共感的理解の妨げとなりやすい。概念を問いとして用い、クライアントのありように交差させるという本論文の提案は、まだ心理臨床の概念をうまく使えない初心のセラピストが概念を意識的に共感的なまなざしとして用いるうえで有用であると筆者は考えている。

ジェンドリンは、「体験的応答」(日笠摩子・田村隆一訳)で概念の体験的な使用について述べています。

セラピー 私たちはことばや概念を、事実的で論理的なものとしてのみではなく、体験的なものとして使うべきである。つまり、感じられた体験過程を指し示すものとして用いるべきである。

久羽論文は、このジェンドリンの議論を参照しつつ、実践上の提案を行っています。
関心をひかれた方はぜひご一読ください。

掲載誌はこちらです:
『臨床心理学』第20巻1号(通巻115号)人はみな傷ついている―トラウマケア
(金剛出版ウェブサイト上のページ)

パーソンセンタード・アプローチと「問う力・聴く力」

2つ目は特集のために執筆した論考で、2020年7月発行の金剛出版『臨床心理学』第20巻第4号pp.389-392に掲載されています。
論文タイトルは

「パーソンセンタード・アプローチと「問う力・聴く力」」

で、特集「カウンセラーの「問う力・聴く力」」の2「問う力・聴く力を身につけて、使ってみる」にあります。

構成は次の通りです。

I はじめに
II 言葉は「感じ」を指し示す
III 視点としての問いかけ
IV セラピストが自分自身を聴くこと
V クライエントその人へのまなざし

「はじめに」の終わりに執筆内容が示されているので、抜粋します。

本稿では、クライエントの語ったことに留まり、それ自体の意味するところ、その指し示すものを深く聞いていくような「聴く力」「問う力」について、Rogers CR や Gendlin ET の考えに基づいて述べたいと思う。

ロジャーズの中核3条件と言われる一致(純粋性)、無条件の積極的関心(無条件の肯定的尊重)、共感的理解は具体的にどう実践されるかの解説にも、フォーカシング指向心理療法におけるセラピストの機能の解説にもなっていると思います。

そしてそれだけでなくこの論考は、広く心理臨床家に向けて書かれたものだと思います。

ぜひご一読ください。

掲載誌はこちらです:
『臨床心理学』第20巻4号(通巻118号)カウンセラーの「問う力・聴く力」
(金剛出版ウェブサイト上のページ)

*参考*
久羽さんの著書・論文はこちらに一覧があります:
久羽 康(大正大学教員データベース)

(文責:堀尾直美)