✦秋思形なす

「秋思」というのは秋の季語で「しゅうし」と読むのですね。
阿部トレーナーによるコラムです。

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 あなたが気に入りそうな一句だからと、遠方に住むフォーカシングメイトが、新聞に掲載された俳句の切り抜きを送ってくれた。
 
 思惟像を見てより秋思形なす 杉阪大和

 美しい句だ。秋の澄んだ空気の、少し肌寒い朝によむにふさわしい。秋の憂い。半跏思惟像のアルカイックスマイルと美しい指先。そこから感じられる静かな救済。
 言葉にすると無粋で勝手な解釈が過ぎるが、半跏思惟像にお相手頂き、秋の物悲しいような、寄る辺ないような、曰く言い難い「秋思」が形を成した、まさにフォーカシングプロセスそのものの世界。好きだ。

 新聞でこの句の世界に触れた友のフェルトセンスは、どこか近しい感覚を持つ私という存在を思いおこしてくれたのだろう。そして、受け取った私のフェルトセンスもまた、この句の世界に魅了され、こうして思いを言葉に紡いでいる。俳句自体も、そしてこの一連の流れも、まるで入れ子構造のように、二重三重にフォーカシング的と思う。

 世界には、悲しみも憂いも存在し、けれども救いもまた、確かに存在するのだろう。美しい句の世界観と、友の私への思いに包まれると、内側には、秋の日差しや金木犀の香りのような、静謐な豊かさが広がっていく。

(文責:あべ)

金木犀の写真

*参考*
中宮寺半跏思惟像:本尊-聖徳宗中宮寺公式ホームページ 国宝菩薩半跏像(伝如意輪観音)