怒りのむこうに

 久しぶりに、怒っていた。

 ある一連の出来事。最初は、ささいなことだったのかもしれない。しかし、言葉の行き違いや、当を得ない返答や、いちいち手間のかかるやり取りや、私の腑に落ちがたい結論は、ひとつひとつがひっかかりとなり、小さな積み木が積まれていくように重なり、やがてそれなりの高さになり、ぐらぐらと不安定に揺れ、結句、私は怒っていると同時に心底うんざりしていた。

 「ちょっと話、聞いてくれる?」

 1人では持て余し気味の感情をどうにかせんと、深夜にもかかわらず、家人に声をかけた。

 あんなことがあって。こんなこともあって。そうだ、こういうこともあったんだよっ。ありえないでしょっ。

 積み木をひとつひとつ確認するように、状況を説明する。話す私の声は、とんがっていて、早口だ。

 ひと段落ついたとき、黙って聴いてくれていた家人が一言。

 「あのさあ、話が通じなくて、傷ついたんだね。そりゃ、悲しいよねえ。」

 突然、時間が止まったかのように、身体がしんと静まった。

 ああ、私は傷ついたのだ。

 一生懸命言葉をつくし、心をつくし、相手に伝えたにもかかわらず、伝わらない感じ、受け取ってもらえてない感じがして、傷ついていたのだ。悲しかったのだ。

 ああ、傷ついていたんだね。それは、悲しいよね。

 気がつけば、怒りもうんざりも雲散霧消。かわりに、暖かないたわりが、じんわりとしみ込んでいく。ふうっと一息、涙が一粒。

 意識を向けると、ぐらぐらと不安定に揺れていた積み木は、いつのまにか、音もなく崩れて散らばっている。ひとつひとつの積み木が、ただ、そこにある。

 ああ、そうだった。そんな出来事があったんだった。

 静かなおだやかな気持ちで、積み木を、事実を眺める自分になれた夜。

(文責:あべ)

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